第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
大丈夫ではない。
母親を失い、村を失い、その面影さえ奪われた少女へ、何を根拠に大丈夫などと言えるのだろう。
腕の中で、アンナが声を殺して泣いている。
私はただ、その背中へ掌を添えた。
……お母さんを、あなたの傍へ残してあげられなかった。
喉まで出かかったその言葉は、声にならなかった。
――あの人を最後に送ったのは、私の歌だ。
「……ティファ」
ラビが、私の傍へ膝をついた。
「顔、上げろよ」
「……でも」
「その子は今、あんたの腕の中にいる」
血の匂いの混じった手が、私の肩へ置かれる。
普段なら何の躊躇もなく距離を詰めてくる彼の手が。今は不思議なほど慎重だった。
「送ることと、見捨てることは同じじゃねぇさ」
私はゆっくり顔を上げた。
翠の瞳が、私とアンナを真っ直ぐ見ている。
「オレは、この村で何が起きたかを記録する」
ラビの声は、掠れているのに揺らがなかった。
「消えた人間のことも。縛られてた魂のことも。あんたが、あの人たちを苦しみから解放したことも」
アンナが、小さく嗚咽を漏らす。
ラビの視線が、彼女へ落ちる。
「それから、この子が母親を呼んでたことも。全部、なかったことにはさせねぇ」
アンナを抱く腕に、少しだけ力が戻った。
「……ありがとう」
声を絞り出す。
ラビは、ふいと目を逸らした。肩に置かれた手は、そのままだった。