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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第51章 【第四十六話】かたちにならないもの



ただ、すれ違いざま。


「ティファ」

低い声が落ちる。


「……はい」


「達者でな」

頭に、大きな手が乗った。



一度だけ。

乱暴でもなく、優しく撫でるでもなく。

ただ、確かめるように。


その手はすぐに離れた。



師匠は振り返らない。

長い外套が崩れた通路の向こうへ消えていき、監視の男達がその後を追った。



足音が、遠ざかっていく。

私はしばらく動けなかった。




――達者でな。


いつもなら、「置いてくぞ」とか「早くしろ」とか。

そんな言葉しか寄越さない人なのに。


その一言だけが、妙に残った。




ふと、頭に触れる。

さっき頭に置かれた手の重みが、まだ残っている気がした。


大きな手だった。



母の手は、もっと小さかった。

その感触を思い出した途端、ずっと遠くに沈んでいた記憶が、不意に浮かび上がった。



父が死んだ日のこと。

母は、父の傍で歌った。
それまで一度も聴いたことのない歌だった。

歌い終えた後、母は長いこと動かなかった。

その夜。
私は、あの歌を真似しようとした。


「駄目」

初めて聞くくらい強い声で、母に止められた。


「それは、歌ってはいけない歌よ」


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