第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
「これは……」
私はふらつく身体を押さえながら、ブックマンの傍へ近付いた。
「イノセンスではないのですか?」
「違う」
ブックマンは即座に答えた。
「AKUMAの痕跡でもない」
「では、何が……」
ブックマンの指が、焼け焦げた紋様の一部へ触れる。その瞬間、喉の奥のニルヴァーナがわずかに震えた。
知っている。
正確には、私自身が知っているわけではない。血の奥深くに刻まれた何かが、その形へ反応している。
「……どうして」
思わず、喉元へ手を添えた。
ニルヴァーナが、もう一度小さく脈打つ。
「どうして、これに反応するの……?」
ブックマンの手が止まった。
ラビの翠の瞳が、すっと細くなる。
やがてブックマンは、焼けた線を見下ろしたまま口を開いた。
「この痕跡は、魂を天へ送るためのものではない。死した魂を、現世へ留めようとした跡だ」
「……名前や記憶が消えたのも、そのせいですか?」
「そうだ。魂は耐えきれず崩れる。そして歪みは、死者へ結びつく生者の記憶や存在まで巻き込む。あの鐘が鳴るたびに、縛りが強まっておったのだろう」
私は、周囲を見渡した。
名前の消えた墓標。
顔を失った肖像画。
誰が暮らしていたのかさえ思い出せない村。
これが、死者を現世へ留めようとした歪みの結果。
「……どうして……」
声が、喉から零れる。
「どうして、そんなことを……」
ブックマンはただ、焼け焦げた紋様を見下ろしている。
その瞳が、細い線の一本一本をなぞるように動いた。
「……失った者を、手放せぬ者がいる」
声は、風に消えそうなほど小さかった。
「死を終わりとして受け入れられぬ者は、時に救いよりも残酷な手段へ縋る」