第50章 【第四十五話】『守る』というかたち
「知ってるわ」
リナリーが果物から顔を上げた。
「全部聞こえてたわよ」
「……全部?」
「最後の捨て台詞まで」
ラビが両手で顔を覆う。
ミランダの毛布を伸ばす手が止まり、肩が小さく震え出した。
私はボードへ書いた。
【自業自得よ】
「ティファまでそっち側なんさ!?」
いつもの時間だった。
面会終了を告げる看護師の声がして、ラビが立ち上がる。
その顔から、一度だけ笑みが消えた。
「……ティファ」
私は顔を上げる。
ラビは何か言いかけるように口を開き、一度閉じた。
「……また何かあったら、何でもいいから残せ」
翠の瞳が真っ直ぐ私を見る。
「誰にでもいい。伝言でも、紙切れでも」
声が少し掠れる。
「……オレが追えるように」
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
私はゆっくり頷く。
ラビは一度だけ目を伏せ、いつもの調子を取り戻すように口元を上げた。
「ん。じゃ、また明日な」
扉の外から、すかさず看護師の声が飛ぶ。
「では、病室までお送りします」
「一人で戻れるさ」
「そう言って三回消えました」
「……やっぱ送ってください」
ぱたん、と扉が閉まった。
その向こうで、観念したらしいラビの足音が遠ざかっていく。
隣で、リナリーが小さく笑った。
「……ほんと、ラビらしいわね」
ミランダも扉の方を見ながら、口元をほころばせていた。
私は息だけで笑って、もう一度扉を見た。
しばらく、そこから目を離せなかった。