第50章 【第四十五話】『守る』というかたち
五日目の午後。
廊下の向こうから、また聞き慣れた声がした。
「三十分!」
「十五分です」
「二十五!」
「十五分です」
「二十!」
「十五分」
「一分も動かねぇじゃん!!」
「面会時間は十五分です。延長はありません」
「そこをなんとか十八分!」
「十五分です」
完全に決裂していた。
隣でリナリーが吹き出し、ミランダも肩を揺らす。
やがて扉が開いた。
「失礼しまーす……」
妙に不服そうな声と共に、ラビが入ってくる。
腕には包帯。
頬には小さな絆創膏。
歩き方も、ほんの少しだけ右側を庇っていた。
それでもちゃんと立っている。
自分の足で歩いている。
私を見つけたラビの足が、僅かに止まった。
翠の瞳が確かめるように私を見つめ、すぐにいつもの笑みを浮かべる。
「……よ。六回目で、ようやく許可下りたさ」
私は無言で枕を掴んだ。
「え?」
そのまま、思いきり投げつける。
「うおっ!?」
胸元で枕を受け止めたラビが、目を丸くした。
「何さ、いきなり!」
言いたいことなら、いくらでもあった。
――恥ずかしいにも程があるのよ。
怪我人が何をしているの。
点滴を勝手に抜かないで。
投げつけた枕を抱き止めているのが、包帯の巻かれた腕だと気づいたら、責める言葉はそこで尽きた。
……心配した。
会いたかった。
本当に、生きていてよかった。
ひとつも声にはできない。
どれから書けばいいのか分からないまま、返してもらった枕を抱く指に力だけがこもった。