第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
レイピアの刃が、眩い光を放った。二振りの刃を同時に振り抜く。白銀の斬撃が、歌と共に広場を走った。
母親の魂と少女を繋いでいた黒い糸が、断ち切られる。
少女の身体を抱えたラビが、霧の外へ転がるように飛び出した。
「……おかあさん!」
少女の叫びが響く。
母親の白い影が、最後に一度だけ、少女へ向かって腕を伸ばした。その輪郭に、ほんの一瞬だけ、穏やかな温もりが戻る。
まるで、泣かないで、と微笑むように。
「……どうか、安らかに」
旋律を重ねる。白い光が、母親の魂を包む。
その隣で縛られていた幾つもの魂も、一つずつ光へ溶けていく。
黒い霧が、初めて明確な悲鳴を上げた。
「今だ、ティファ嬢!」
ブックマンの声が飛ぶ。
針で築かれた光の囲いが、一斉に輝きを増した。
霧の中心が裂ける。
鐘楼へ伸びる黒い糸の根元に、焼け焦げた束のような塊が脈打っていた。
――誰かの意志が残した、死者を縛るための核。
視線だけで、ラビを呼ぶ。
「分かってるさ!」
少女を霧の外へ下ろしたラビが、大槌小槌を振り上げる。
傷だらけの身体で踏み込み、露わになった黒い核へ真正面から叩き込んだ。
「砕けろ!」
激しい衝撃と共に、黒い核へ亀裂が走る。
私は最後の一音を紡いだ。
「――ニルヴァーナ」
白銀の刃が、黒い核を貫いた。
音が消えた。
風も、霧も、叫びも。
すべてが、真白な光の中へ溶けていく。
その光の中で、幾つもの魂が静かに昇っていくのが見えた。
老人も。若い人も。小さな子供も。
最後に昇っていったのは、少女の母親だった。
一度だけ、霧の外の娘を振り返って。
光が静まった時、広場の霧は跡形もなかった。