第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
母親の魂へ絡んだ黒い糸が、少女の胸元へ深く沈み込んだ。
「……っ、あ……!」
少女の小さな身体が大きく震え、抱き締めていた布人形が石畳へ落ちた。
「おかあ……さん……!」
母親の魂が、必死に少女へ手を伸ばす。その腕もまた黒い糸に引かれ、輪郭を崩していく。
……っ、このままでは、母親を解放するより先に、少女まで歪みへ呑み込まれる。
歌を一瞬だけ中断し、叫んだ。
「ラビ! その子を、霧の外へ!」
すぐに旋律を繋ぎ直し、両手のレイピアを構える。
「分かったさ!」
一瞬の迷いもなかった。
ラビが槌を振り抜き、迫る霧を大きく押し退ける。そのまま地面を蹴り、私の傍へ飛び込んできた。
黒い霧が彼の肩を裂く。血が散る。
ラビの腕は、真っ直ぐ少女へ伸びた。
「掴まれ!」
怯えて動けない少女の身体を、ラビが片腕で抱き上げる。
黒い糸が幾本も引き伸ばされ、少女を霧の中心へ引き戻そうと暴れた。
「ティファ!」
私は歌を止めないまま頷き、二振りのレイピアを構え直した。
見える。
死者の魂へ絡み、母親から少女へ伸びた、歪んだ拘束の糸。
――あれを断たなければ、少女は救えない。
「……離して」
歌声へ、意思を乗せる。
「その人たちは、あなたのものじゃない」