第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
考える暇はなかった。霧の腕が、結界を突き破ろうと殺到する。
「ティファ、集中しろ!」
ラビが私の前へ飛び出した。
大槌小槌が巨大化し、黒い霧の塊へ叩きつけられる。
鈍い衝撃音。
霧が砕け、一瞬だけ道が開く。
散った黒はすぐに集まり、再び刃のような形を作ってラビへ襲いかかった。
叫びかけた名前を、旋律の中へ呑み込む。
「こっちは気にすんな!」
彼が叫ぶ。
こちらへ一歩も近付けさせまいと、何度も槌を振るっている。
霧の刃が頬を掠めた。赤い血が空中へ散る。団服の袖も裂け、腕へ鮮やかな赤が滲んだ。
ラビは退かなかった。
「来るなら、来いよ……!」
目の奥が、熱くなった。
つい先ほどまで、戻るべきだと言っていた彼が。私の判断を危険だと見抜いていた彼が。
今は、私が歌い続けられるように、身体を張って霧を受け止めている。
――私を信じて。
そう言った言葉へ、彼は応えてくれている。
私は歌を強めた。
白銀の光が広場へ満ちていく。縛られていた白い影が、一つ、また一つと、淡い光を宿し始める。
黒い糸が軋む。苦しみに歪んでいた死者たちの声が、少しずつ穏やかな音へ変わっていく。
――届いている。この人たちは、まだ救える。
終わらせるためではなく。
苦しみから解放し、あるべき場所へ還すために。
私は歌っていた。