第49章 【第四十四話】灰に咲く白百合
コムイも黙って頭を下げた。
周囲にいた科学班員やファインダー達も、泣きながら亡くなった仲間達へ顔を向けている。
その中に、ヨハンもいた。
あの夜のようには、跪いていない。
足はまだ竦んでいた。
それでも、自分の足で立っていた。
視界が、再び白く霞んだ。
音を繋ぐたび、喉の奥で何かが裂けていく。
もう少し。
あと、一息だけ。
最後まで、送り届けるまで――。
ラビは何も言わなかった。
ただ、今にも崩れそうなティファの身体を、背後から支え続けていた。
歌うたびに揺れる身体を追うように、背中へ回った腕が時折強く締まる。
やがて、旋律が終わりへ近づく。
最後の一音を紡ぎ終えた、その瞬間。
――ピシ。
こめかみで、小さな音がした。
髪飾りへ一本の亀裂が走り、次の瞬間、白銀の粒となって砕け散る。
――私は、まだ『私』のままだろうか。
自分の声を聞けば、分かる気がした。
確かめようとして、唇を開いたけれど音は出なかった。続けて息を吸っても、漏れたのは細い吐息だけだった。
身体から力が抜けていく。
ティファが倒れるより早く、ラビの腕が強く引き寄せた。
「ティファ」
呼ばれて顔を上げる。
返事をしようとした。
けれど、もう音にはならなかった。
「……声、出ねぇのか」
ラビの顔から、血の気が引く。
ティファは、彼の服を掴んだ指へほんの少しだけ力を込めた。
「……もう喋んな」
ラビは一度、苦しそうに息を吐いた。
「もういいから……。全部、終わったんさ」
その声は、ひどく近かった。
その言葉を聞いた途端、張り詰めていたものがほどけた。
堪えていたものが、音もなく頬を伝う。
ティファはラビへ身体を預けたまま、ゆっくりと目を閉じる。
もう、悲鳴は聞こえない。
いくつもの泣き声と、誰かの名前を呼ぶ声が、遠くなっていった。