第49章 【第四十四話】灰に咲く白百合
Side:ラビ
「ティファ!」
遠くから、婦長の声が響いた。
駆け寄ってきた医療班は、白い上衣を染めた血を見るなり表情を変える。
「すぐ担架を! 傷が完全に開いてるわ!」
「熱も高い!」
慌ただしく指示が飛び交う中、ラビは医療班が準備を終えるまで、ティファを支え続けた。
医療班に促され、ようやく冷えた指を手放す前に、一度だけ強く握り直す。
何か、言おうとした。
馬鹿野郎、と叱るのでも。がんばったな、と笑うのでも。
何でもよかったはずなのに。
どの言葉も、喉の手前で止まった。
結局、何も言えないまま、手を放した。
担架が運ばれていく。
ラビは、その姿が瓦礫の向こうへ消えるまで動かなかった。
やがて視線を上げると、少し離れた場所で、リナリーが科学班のロブの胸元へ顔を埋めて泣いていた。
コムイは何も言わず、その光景を見つめている。
崩壊した研究室に、もう歌声は残っていなかった。
それでも。
そこにいた誰かの名前を呼ぶ声だけは、いつまでも途切れなかった。