第49章 【第四十四話】灰に咲く白百合
その前へ膝をつこうとして身体が傾くと、ラビが背後から支え、ゆっくりと座らせてくれた。
ティファは浅い呼吸を整え、タップを見つめる。
「……ジョ……ニー……」
掠れた声が漏れた。
ティファは目を見開く。
歌うよりも先に、タップの瞳がジョニーを捉えていた。
「タップ……?」
ジョニーの声が裏返る。
「分かるの……? 僕だよ、ジョニーだよ……!」
崩れかけた指が、ほんのわずかに動いた。
ジョニーは、その手を強く握り締める。
「っ……タップ……!」
――まだ、ここにいる。
ティファは浅く息を吸った。
喉の奥へ、鋭い痛みが走る。
――声を出せば、もう二度と戻らないかもしれない。
その恐怖は、今も消えていなかった。
それでも、歌いたかった。
誰かに命じられたからではない。
力に求められたからでもない。
自分の意思で、この魂を見送りたかった。
最初の一音が、傷ついた喉を通る。
こめかみに、あの重みが戻ってきた。
視界の端で、花弁のように重なった髪飾りが、歌声へ応えるように白銀の光を強めていく。
背後で、ラビの腕に力がこもった。
けれど、歌を止めようとはしなかった。
魂を送るための歌と、敵を貫いた白銀の光。
もう、どちらがセトラの力で、どちらがニルヴァーナなのか分からなかった。
喉の傷を内側から擦られ、口の中へ血の味が広がる。
それでも、ティファは歌った。
父を見送った夜、母が涙を堪えながら歌っていた旋律。
帰る場所を見失った魂を、彼方へ送り届けるための歌を。
喉元に残る銀色の亀裂が、歌声へ合わせて淡く明滅していた。
歌は、何も元へ戻さなかった。
黒い骨が、人の身体へ戻ることはない。
砂へ変わっていく手が、再び温もりを取り戻すこともなかった。
崩壊は、止まらない。
それでも、タップの身体から苦しげな強張りが解けていった。
濁っていた瞳が、少しだけ穏やかになる。
「……ジョニー……」
「……うん。ここにいるよ」
ジョニーは、何度も頷いた。