第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
歌えば、縛られた死者たちを解き放てるかもしれない。そうすれば、あの母親も、この子の前から本当にいなくなる。
――お母さん。
霧の中で震える少女の声へ、遠い雪の日の自分が重なった。
冷たくなっていく母の身体。
力を失っていく指先。
置いていかないでと、何度願っても届かなかった声。
胸が痛んだ。
この子を救うことは、母との別れを決定づけることでもある。
手を伸ばしたまま震えている母親の魂を、もう一度見る。
――あなたは、生きて。
母が最後に願ったのは、私を引き留めることではなかった。
「歌うわ。周りをお願い」
振り返らずに告げ、私は少女の前へ膝をついた。
霧が、靴先へ触れる。視界の端から色がわずかに薄れた。
「ティファ、そこから先は出るなよ。周りはオレが見る」
背後からの声に小さく頷き、私は少女と、その傍に揺れる母親の魂を見つめた。
「……ごめんね。あなたのお母さんを、ここへ留めておくことはできない」
少女の瞳が、涙に濡れたままわずかに揺れる。
「でも、これ以上苦しませない。あなたも、ここで終わらせないわ」
その言葉へ応えるように、ニルヴァーナが強く脈打った。