第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
村の中央へ近付くほど、霧は濃くなっていった。
道の左右に並ぶ家々には、生活の痕跡が残っている。
開いたままの扉。倒れた椅子。床へ落ちたままの編み籠。食卓には、途中で放り出されたような皿と、乾ききったスープの跡さえ残っていた。
人が暮らしていた。ほんの少し前まで、確かにここで息をしていた。
それなのに、誰一人いない。
家の壁にかけられていたらしい家族の肖像画は、顔の部分だけが白く抜け落ちている。玄関に置かれた子供用の靴は残っているのに、誰のものだったのかを示す札だけが空白になっている。
道の先には、小さな墓地があった。
並んだ墓標には、どれも名前が刻まれている。なのに、一つとして読めない。誰が眠っているのかだけが、この場所から失われている。
私は旋律を止めた。両手の刃が、淡い光へほどける。
「……死者から、始まったのね」
思わず、声が零れた。
「その可能性は高い」
名を失った墓石を見下ろしたまま、ブックマンが答える。その目が、ふと広場の方へ向いた。
「止まれ」
ブックマンの声に、足を止めた。
彼の視線の先には、村の広場と、そこへ隣接する小さな教会があった。
白かったはずの外壁は灰色に煤け、鐘楼の一部は崩れ落ちていた。
ただ、吊り下げられた鐘だけは残っている。
風もないのに。
ゆらり、と鐘が揺れた。
――ゴォン。
低い音が響く。
今度は、はっきりと聞こえた。