第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
……それでも。
「何もしないまま、あの声を置いていくなんて……できない」
翠の瞳が、私の顔を静かに見つめている。
その奥で鳴り続けていた乾いた音が、一瞬だけ途切れた。
私は、声を落とした。
「……私を信じて、ラビ」
ラビの指先が、わずかに動いた。それから、深く長い息を吐く。
「……ったく」
バンダナの端へ指をかけ、苦く笑う。
「来たばっかの新人が、そんな顔で頼むなよ。断りづれぇだろ」
「ラビ……」
「勘違いすんなよ。無茶を認めたわけじゃねぇ。……救出だけだ。異変の正体を追うのは、その子を外へ出してからにする」
ラビは私の前へ一歩出た。
「進むなら、オレたちの指示に従え。死者の声に引っ張られて、あんたまで戻れなくなりそうなら……何が聞こえてようが、力ずくでも連れて帰る。……いいな?」
ラビは、私が頷くまで目を逸らさなかった。
「ええ」
ブックマンが長い溜息を吐く。
「止めても行く顔をしておるのう」
「……申し訳ありません」
「謝るくらいなら、必ず戻れ。死者を送る者まで、消えては話にならん」
その言葉に、私はもう一度頷いた。
喉の奥へ意識を沈める。ニルヴァーナが、白い熱を返した。
「――イノセンス、発動」
短い旋律を紡ぎ、両手を開く。
白銀の光が胸元から溢れ、腕を伝って両手へ集まる。
細く、鋭い刃の輪郭。二振りのレイピアが、霧の中へ姿を現した。
ラビが大槌小槌を構える。
ブックマンは腰元の針入れから黒い針を抜き取った。
霧の奥で、歪んだ歌が強まる。
還れない死者たちが、救いを求めて声を重ねるように。
私は一歩、踏み出した。