第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
列車を降り、さらに馬車で半日ほど進んだ先に、その村はあった。
夕暮れの光はとうに薄れ、空には灰色の雲が垂れ込めている。
村の入口へ立った瞬間、私は足を止めた。
「何、これ……」
静かすぎた。
石畳を踏む音が、途中で切れる。風は家々の間を抜けているのに、揺れる木の葉の音が届かない。
壁も、窓も、道端に倒れた荷車も、どこか輪郭が薄い。古い絵から、色が少しずつ抜け落ちていくようだった。
「記録どおりだ」
ブックマンが呟く。
彼は、村の入口に立つ古びた標識へ目を向けた。
「村の名が消えておる」
私も標識を見る。
木板には、文字を刻んだ溝が確かに残っている。それなのに、目で追っても、何と書いてあるのか読み取れない。
「……こんなことが」
声を漏らした、その時だった。
遠くで、鐘が鳴った。
鈍く、ひび割れた音。
一度。
二度。
――鐘の音を聞くな。
報告書の一行が蘇り、咄嗟に耳を塞いだ。
なのに、三度目の鐘がはっきり聞こえた。
――耳じゃない。喉の奥で、鳴ってる。
ニルヴァーナが、大きく脈打つ。
「……っ」
焼けるような熱に、私は反射的に喉元へ手を添えた。
「ティファ?」
ラビの呼ぶ声に答えるより先に、喉の奥で、別の音が鳴り始めた。
歌だった。
途切れ、引き裂かれ、苦痛に塗れたいくつもの声が、霧の奥で絡み合っている。
母から教わった、魂を天へ導く旋律に似ていた。
向きだけが、逆だった。