第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
駅のプラットフォームには、黒い煙を吐く重厚な蒸気機関車が停まっていた。
空は低く曇り、冷たい風が団服の裾を揺らしている。
汽笛が、鋭く響いた。
客車の狭いコンパートメントへ入ると、ブックマンは早々に窓際へ腰を下ろし、資料の束を広げた。
私は向かいの席へ座る。
その隣へ、当然のようにラビが腰を下ろした。
「……向かいが空いているでしょ?」
「じじいの隣より、ティファの隣の方が旅が楽しくなりそうだから」
「遊びに行くわけじゃないのよ」
「分かってるって。だから、せめて道中くらいは楽しくしときたいんさ」
笑いながら答える声は、どこまでも軽い。
列車がゆっくりと動き出す。
窓の外の景色が、灰色の線になって流れていく。
車輪が線路を刻む音だけが続く。
窓硝子の中で、隣の横顔がずっとこちらを向いていた。
「……何か?」
私が窓の外を見たまま尋ねると、ラビがわずかに身を乗り出した。
「いや。ティファ、思ったより緊張してねぇなと思って」
「緊張してるわ」
「そうは見えねぇけど」
「誰かさんの視線がうるさくて、緊張する暇もないわ」
窓硝子の中で、ラビが目を瞬かせた。
「……あ、バレてた?」
「窓に映っているもの」
「うわ、抜け目ねぇ」
ラビは楽しげに笑い、背もたれへ身体を預けた。
「……ラビ」
「ん?」
「あなた、いつもそうやって人を見るの?」
ラビの笑みが、わずかに止まった。
「そうやって?」
「笑いながら、相手の中まで覗こうとするみたいに」
車輪の音が、急に大きく聞こえた。
向かいの席で、ブックマンが資料をめくる音が、一度だけ途切れた。