第5章 【第四話】黒衣に宿る祈り
Side:ラビ
その日の夜。
書庫の奥では、古びた紙を捲る音だけが静かに響いていた。
ラビは椅子の背へ身体を預けたまま、向かいのブックマンを見る。
「にしても、珍しいさ」
頁を捲る手は止まらない。
「新人の初任務に、じじいまで同行するなんて」
そこでようやく、ブックマンの視線が上がった。
「何が言いたい」
「別に?」
ラビは肩を竦める。
「随分と手厚いなって思っただけさ」
ブックマンは暫く黙っていた。
やがて、ゆっくり資料を閉じる。
「あの娘は、滅びたはずのセトラの血を引いておる」
ラビの笑みが、僅かに薄れる。
「その上、寄生型のイノセンスまで宿しておる」
低い声だった。
「何を見て、何を選ぶのか」
ブックマンの視線が鋭くなる。
「我らの目で、見極める必要がある」
ラビは暫く黙っていた。
「……我ら、ね」
「ああ」
短い返答。
「つまり、じじいが直々に見に行くってわけか」
「他人事のように言うでない」
ラビが片眉を上げる。
「お前は何のために、ここにおる」
一瞬。
ラビの笑みが止まった。
けれど、すぐにいつもの表情へ戻る。
「はいはい。分かってるさ」
椅子から立ち上がる。
ふと、鍛錬場で見た光景が脳裏を過った。
白銀の刃。
呼吸の変化。
そして、自分へ向けられた一瞬の視線。
見ていたはずなのに。
逆に、見返されたような感覚。
ラビは僅かに目を細めた。
「ま」
肩を軽く竦める。
「見るだけなら、得意だし」
ブックマンは何も答えなかった。
ただ、書庫を出ていくラビの背中を静かに見送っていた。