第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
「気負うでないぞ」
しわがれた声に振り向くと、書棚の陰から、小柄な老人がゆっくり歩み出てくるところだった。
皺の刻まれた顔。瞳へ宿る、静かで鋭い光。
――記録者。
ブックマンだった。
その少し後ろには、長い手足を持て余すように壁へ寄りかかっていたラビの姿もある。
赤い髪。眼帯。いつもと変わらない、人懐こい笑み。
ブックマンの背後に立つ彼の姿は、食堂や回廊で軽口を叩いていた時より、どこか輪郭が違って見えた。
「今回の任務には、ブックマンとラビも同行する」
コムイさんが説明する。
「現象の記録と分析が必要だからね。何が起きているのか分からない以上、現地で得られる情報は一つも失いたくない」
私はブックマンへ向き直り、一礼した。
「ブックマン様。先日はご挨拶もできず、失礼しました。今回は、よろしくお願いいたします」
一瞬、ラビが目を丸くしたように見えた。
「よい。あの時は、この馬鹿弟子を回収するので手一杯だったからの」
「馬鹿弟子って……」
ラビは口を尖らせたものの、それ以上は言い返さなかった。ブックマンの前だと、彼は少しだけ大人しい。
「師匠から、お名前は伺っていました」
「……クロスの奴め。余計なことまで喋っとらんだろな」
ぼやく口調とは裏腹に、その目は、私の喉元へ向けられていた。