第9章 十六夜
中に通されるとたくさんの棚の中に真っ白の食器が所狭しと置かれている。
「何に描きたい?」
「マグカップを…五つ分」
「画材はそこの好きに使って良いよ。失敗しても焼き付け前なら描き直しきくから考え込まず直感で描きな」
「ありがとうございます!」
華楠は黙々と白のマグカップに色を乗せていく。その様子を見ながら八戒は家主の女性に話しかけた。
「ここは工房ですか?」
「そんな大したもんじゃないよ!」
女性は大袈裟に手を振りながら答える。
「子どもらに適当に描いてもらった食器を私が焼き付けだけして売ってんの。子どもの発想力とか筆使いや色使いって固定概念に囚われてなくて、良い模様になるんだ。」
言いながら子どもたちを見る女性の目はとても優しい。
「最初は近所の子数人に手伝って貰ってたんだ。そしたら、友達連れてきたって言ってどんどん増えちゃって」
八戒も子どもたちに目をやり細める
「それは…賑やかで良いですね」
1時間ほど経った頃だろうか、子どもたちがガチャリと家の中に入ってきて
「ねえおばちゃん、お月様ってなんでついてくるの?」「なんでー?」「なんで?」
と騒ぎ出した。
きっと月の絵を描いている時にそういう話になったのだろう。
「えぇ…こりゃまた難しい質問だね…」
苦笑いを浮かべながら、どう言えばこのなぜなぜモンスター達は納得するのか考えているようだ。
そこへ八戒が子どもの目線の高さにしゃがみこみ話しかける。
「僕たちが今いる場所と、お月様がいる場所はものすごーーーーーく遠く離れているんですよ。君たちから見るお月様ってどれくらいの大きさですか?」
「えっとねーこれくらい!」
手を使ってその大きさを表現する子どもたち
「そう、とっても小さく見えますよね。じゃあこの大きなお皿、僕がこれを持っているので君たちはこのお皿を見ながら適当に歩いてみてください」
「どうですか?このお皿は君たちのあとを着いてきますか?」
「こなーい!」
「それはこのお皿が君たちの近くにあるから、少し自分が動いただけでお皿の見え方が変わるんです。
その点、お月様は遥か遠くにあるので自分がちょっと動いただけでは見え方は変わりません。そもそも遠すぎて変化が見えないというのが正解です。目の錯覚というやつですね。」