第37章 格闘訓練
ユカリは焦る様子もなく、目の前の爆豪へ静かに目を細めて微笑んだ。
「爆豪くん、楽しそう」
「ハッ!」
爆豪も獰猛に笑い返した。
「うるせぇ!!」
ドォン!! と再び至近距離で爆発が起き、二人の距離が離れる。
壁際で見ていた切島は、ただただ呆然とするしかなかった。
レベルが高すぎて意味がわからない。
自分がこの一週間で教わった読み合いや重心のコントロールを、二人は何段階も上の領域で平然とやってのけている。
「これが……ユカリ先輩の本気……」
激しい風圧に晒されながら、切島の腕にはびっしりと鳥肌が立っていた。
恐怖すら覚える領域の戦い。
だが同時に、胸の奥で熱いものが激しく込み上げてくる。
純粋に――どこまでも格好良かった。
戦闘はなおも続く。
爆豪が猛烈に攻め立て、ユカリがそれを鮮やかに捌く。
けれど、ユカリはただ守っているわけではなかった。
猛攻に耐えながら、ずっと見極めていたのだ。
爆豪の癖、攻撃の選択、その呼吸のすべてを。
そして、その瞬間が訪れた。
爆豪が仕掛け、ユカリが動く。
一歩。
二歩。
三歩先。
彼女の読みが、爆豪の動きを完全に捉えた。
「――そこ」
爆豪の目が大きく見開かれる。
しまった、と直感が告げた時にはもう遅かった。
ユカリの動きのギアが一段、跳ね上がる。
流れるような踏み込みから体勢を崩され、気づけば完全に死角を取られていた。
ぴたり、と首元に鋭い手刀が寸止めされる。
完全な静止。
訓練場からすべての音が消えたかのように静まり返った。
数秒の沈黙の後、ユカリがふわりと表情を緩めて笑った。
「私の勝ち」
勝負あり、だった。
爆豪は大きく息を吐き、肩を激しく上下させた。
額からは汗が流れ落ちている。
間違いなく全力だった。
だが、完璧に負けた。
対するユカリは、呼吸一つ乱しておらず、汗すらほとんどかいていない。
圧倒的な余裕がそこにはあった。
「えげつねぇ……」
切島の口から、呆然とした本音が漏れる。