第37章 格闘訓練
少しの静寂が流れた後、切島はどこか決意を秘めた声で切り出した。
「……あの、先輩」
その表情が一気に引き締まる。
先ほどまでの無邪気さはなかった。
「実は……明日の授業、実戦形式の演習があるんスよ。格闘戦もありの、対人訓練で」
「そうなんだ」
なるほど、とユカリは深く納得した。
だからここ最近、彼はどこか焦るように技術を求め、必死に特訓に打ち込んでいたのだ。
「……勝ちたいんだ?」
ユカリが静かに尋ねると、切島は一瞬だけ口を噤んだ。
訓練場の窓の外は、綺麗な夕方のオレンジ色に染まっている。
切島は自分の拳を握りしめ、真っ直ぐにユカリを見据えて言った。
「勝ちたいっス。絶対に」
その声には、力強い意思が宿っていた。
ユカリは否定も肯定もせず、ただ静かにその言葉に耳を傾ける。
急かすような真似は一切しない。
切島は一度呼吸を整えると、遠い目をして語り始めた。
「俺……昔から強い奴にめちゃくちゃ憧れてたんス。でも、俺って案外ビビりっていうか……中学の頃とか、特にそうだったんスよ」
自嘲気味な苦笑いを浮かべる。
「友達が危ない目に遭いかけて、助けたいって思ったのに……身体がすくんで、一歩も動かなかったことがあるんです」
その日を思い返しているのだろう。
「それ、今でもはっきり覚えてて……俺、あの時、何も出来なかったなって」
悔しさに掠れた静かな声が、夕暮れ時の訓練場にぽつんと響く。
「だから、雄英に入ってもっと強くなりたくて。今度こそ誰かを守れる本物のヒーローになりたくて……」
「でも、周りを見たら化け物ばっかりなんスよ」
「爆豪とか、轟とか、緑谷とか……みんな、すげぇなって」
「うん。そうだよね」
ユカリが温かい声で相槌を打つ。
「俺だって自分なりに頑張ってるつもりなんスけど、あいつらに全然追いつけてる気がしなくて……だから、明日は絶対に勝ちたいんです」
それは単なる授業の勝敗ではなかった。
自分自身に。
弱かった過去の自分に。
あの日、恐怖の前に逃げ出してしまった自分自身に。
その全てに。
改めて、勝ちたいのだ。