第37章 格闘訓練
ユカリは、必死に背筋を伸ばそうとする切島を見て、満足そうに口元を綻ばせた。
「やっぱり、切島くんは強いね」
予期せぬ言葉に、切島は目を丸くした。
「え……?」
「こういう地味な訓練ってね、才能じゃなくて性格が出るの」
ユカリは立ち上がり、切島の目を見つめて穏やかに語りかける。
「どれだけ苦しくても立つ。しんどくても腐らずにやる。それってね、誰にでも出来ることじゃないの。本当にすごいことなんだよ」
切島は胸がいっぱいになる。
何も言葉が出てこなかった。
自分が心から憧れている先輩に、一番大切にしている「根性」を真っ正面から褒められた。
認められたのだ。
その温かい言葉が、ボロボロになった身体の奥へ、じんわりと染み渡っていく。
「……ありがとうございます!」
照れ隠しに鼻の頭を親指でごしごしとこすりながら、切島は声を張った。
ユカリは満足そうに微笑むと、パンと両手を叩いた。
「じゃあ、休憩終わり!」
「はい!」
「次からは受け身の練習ね」
切島の思考が、本日何度目かの上書き停止を起こす。
「受け身……?」
「うん。私が今から切島くんを投げるから」
「え?」
その瞬間、観客席のミリオが勢いよく立ち上がった。
「頑張れ切島くん!耐えるんだ……!」
ねじれもぶんぶんと大きく手を振る。
「ちゃんと無事に帰ってきてねー!」
環にいたっては、相変わらず本に視線を落としたまま、ぼそっと不穏なエールを送った。
「……死なない程度に、頑張れ」
「なんなんすかその物騒な応援はっ!?」
切島の魂からの叫びのような悲鳴が、訓練場に虚しく木霊した。
***
それからさらに数十分後。
「うおっ!?」
ドサッ!! と激しい音が訓練場に響き渡る。
「もう一回」
「はい!」
ドサッ!!
「もう一回」
「はい!」
ドサッ!!
「もう一回」
「はい!!」
何度も何度も床に叩きつけられながらも、切島の顔には不思議と笑みが浮かんでいた。
痛い。
苦しい。
全身が信じられないくらい悲鳴を上げている。
だけど――猛烈に楽しい。
最高に充実している。