第36章 2on1
八百万は、まだその場に座り込んだままだった。
達成感と、一気に押し寄せてきた疲労感で、どうしても足に力が入らない。
そんな彼女に、ゆっくりと近づく足音。
見上げると、ユカリが歩み寄ってくるところだった。
その表情は、いつもの柔らかな先輩の笑顔。
「八百万さん、お疲れ様」
ユカリが優しく手を差し伸べる。
「すごく良かった!」
その真っ直ぐな言葉が、八百万の胸を締め付けた。
「あ、あの……」
八百万は、かすかに声を震わせる。
「ユカリ先輩が、気づかせてくださったお陰ですわ……!」
差し出された細い手を、両手で包み込むようにギュッと握りしめる。
ユカリが少しだけ力を込めて引くと、八百万の体にすっと力が戻り、立ち上がることができた。
「ユカリ先輩があの時、声をかけてくださらなければ……」
八百万は、少しだけ視線を落として俯く。
「わたくし、きっと、あのままでした」
少し離れた場所で、轟も静かに二人の会話に耳を傾けていた。
「自分が前に出るなんて、これっぽっちも考えもしませんでしたわ」
ずっと、自分は支える側なのだと思い込んでいた。
優秀な誰かを補助し、後方から支援する。
それが自分の役割であり、限界なのだと。
けれど今日、初めて自分の意志で前に出た。
大きな決断を下し、戦況を指揮し、そして目の前の高い壁に打ち勝った。
その経験が、彼女の心にどれほど大きな変化をもたらしたか、計り知れない。
ユカリは、そんな八百万の肩の揺れを愛おしそうに見つめ、優しく微笑んだ。
「どんなイメージも、可能性は無限だよ」
その言葉に、八百万が顔を上げる。
「失敗から学ぶことも大事だけどね」
ユカリは、言葉を丁寧に紡ぐ。
「成功したっていう体験も、それと同じくらい、自分を信じるためには大事なことなんだよ」
その言葉は、まっすぐに八百万の心へと染み渡っていった。
ただ純粋に、目の前の後輩の未来を信じている。
そんな温かさが、ユカリの声音や眼差しからこれ以上ないほど伝わってきた。
「……はい!」
八百万は深く深く頷いた。
差し伸べられた温かい手をもう一度しっかりと握り直す。