第36章 2on1
観戦席。
担任の相澤だけは、周囲のお祭り騒ぎとは少し違う視線をフィールドに送っていた。
最後、あのワイヤーが絡む直前の瞬間。
ユカリの実力なら、避けられた。
ワイヤーが出るより前。
轟が死角から迫る前。
八百万の狙いも。
すべて。
彼女は見抜いていた。
それでも。
ユカリは半歩だけ反応を遅らせた。
本人以外は気付かない程度に。
「……甘いな」
相澤は腕を組んだまま、フッと小さく口元を緩める。
もしこれが教師なら、実力差を分からせるために、もっと厳しく完膚なきまでに叩き潰していたかもしれない。
だが、今日のユカリは教師ではなく、彼らの一歩先を行く「先輩」としてそこに立っていた。
決して、わざと負けてやったわけではない。
二人の作戦は見事だった。
ユカリはただ、掴ませたのだ。
自分たちの力で勝ったという感覚を。
八百万に必要だった、成功体験を。
必要な時、必要な場面で。
あの二人に確実に掴ませた。
相澤は小さく息を吐き、視線を再びグラウンドへと戻した。
「まぁ……」
視線の先では、清々しい顔で笑うユカリと、達成感に満ちた八百万、そして少し誇らしそうな轟の姿があった。
「それも悪くないか」
午後の眩しい光が照らすグラウンドβに、心地よい余韻が広がっていた。