第36章 2on1
それを観戦席の後方で見ていたねじれが、くすくすと笑う。
「ユカリって昔からああなんだよね!気付くと、みーんな好きになっちゃうの!」
環も、どこか遠い目をして静かに頷く。
「……本人は全くの無自覚」
「だよねぇ!」
ミリオも大きく頷き、目を細めた。
「昔からユカリはさ、周りの人を元気にする天才なんだよ!」
そして、その言葉の通りだった。
八百万の顔には、もうさっきまでの、どこか自信なさげな面影はどこにもない。
自分の殻を破り、しっかりと一歩前へ踏み出したヒーローの顔をしていた。
そんな中。
八百万が、意を決したようにユカリの手をがっしりと握りしめた。
「ユカリ先輩!」
「うん?」
突然の熱量に、ユカリが目を丸くする。
「わたくし、ユカリ先輩を目指しますわ!」
「……え?私?」
「はい!ですのでまずはユカリ先輩の1日のルーティンを、起床時間から就寝の瞬間まで細かく教えてくださいます!?」
八百万はひどく感銘を受けた様子で、爛々と目を輝かせながらユカリに迫る。
「ぶふっ、あいつ何聞いてんだよ!」
「そこから!?」
真面目すぎるが故の斜め上の要求に、観戦席からはドッと大きな爆笑が巻き起こった。
ユカリという人間の周りには、いつも自然と人が集まり、その熱にあてられて誰もが前を向いていく。
それは、彼女の強さだけが理由ではない。
他者の可能性を誰よりも信じ、そっと背中を支えてくれる。
その真っ直ぐな生き方と底抜けの温かさに、誰もが惹きつけられてしまうからだ。
そして、今日もまた一人。
彼女の人間性に惚れ込んだ後輩が、その光の中で新しく歩み始めた。
騒がしい笑いの中。
後輩たちの成長を自分のことのように嬉しそうに見つめるユカリ。
その柔らかく、どこまでも温かい横顔は、やはり雄英の誰もが憧れ、惹かれずにはいられない、本物の「先輩」の輝きに満ち溢れていたのだった。