第36章 2on1
だが、ユカリはその隙を見逃さなかった。
たった一瞬。
本当に一瞬だけ、轟が八百万の指示を確認するために意識を割いた、その瞬間。
ユカリの姿が、消えた。
「!」
轟が驚愕に目を見開く。
速い。
ユカリの足が爆発的に地面を蹴った。
鋭い踏み込みから、しなやかな回転。
そして、一瞬にして轟の懐へと潜り込む。
一気に距離を詰められ、氷を放つ隙すら与えられない。
観戦席で、出久が勢いよく立ち上がった。
「速い!!」
轟も反射的に反応したが、一歩遅い。
ユカリの拳、肩、足が、流れるような連撃となって轟を襲う。
ガッ!
ゴッ!
バシッ!
的確に防御を崩され、体勢を乱され、呼吸を奪われる。
それは、徹底的に鍛え上げられた、極めて高度な格闘技の技術だった。
「うおおおおお!!」
切島が興奮で叫ぶ。
「ユカリ先輩かっっけえ!!」
上鳴も身を乗り出して立ち上がった。
「近接できるじゃん!!」
「めちゃくちゃできるじゃん!!」
瀬呂も興奮を隠せずに叫ぶ。
轟はなんとか後方に飛び退いて距離をとったものの、激しく目を見開いていた。
今の一連の打撃。
強い。
普通に強すぎる。
しかも、並外れた練度だった。
ユカリは何事もなかったかのように、すっと基本の距離に戻り、小さく息を整えた。
「轟くん」
ユカリは、いたずらっぽく笑う。
「近接戦なら勝てるって思ったでしょ?」
轟は少しの間を置いて、正直に答えた。
「思ってました」
そのあまりの素直さに、観戦席は爆笑に包まれる。
「正直だな!!」
上鳴が指をさして叫ぶ。