第36章 2on1
隣でミリオが「あはは!」とお腹を抱えて大笑いしていた。
「だから言ったじゃん!」
ミリオが出久たちを振り返る。
「ユカリ、格闘めっちゃ上手いんだよ!!」
「知らなかったです!!」
出久が目を丸くして驚く。
「だって普段やらないもん!」
「なんでですか!?」
「近付く前に終わるから!」
「なるほど!!」
あまりにも説得力のある理由に、出久は妙に納得してしまった。
ねじれも楽しそうに何度も頷く。
「ユカリはね〜気付いた時にはもう格闘技使ってたよね〜!いつからだっけ?」
「……入学してすぐ」
環がぽつりと言い、切島が驚愕の声を上げた。
「まじっすか!!」
騒ぎ立てる切島たちの横で、爆豪だけは何も言わず、ただじっとフィールドを見つめていた。
一言も発さず、ただ静かに、鋭い眼差しでユカリの動きを追っている。
その横顔には、彼女の圧倒的な実力を純粋に認め、そしていつか必ず超えてやるという静かな闘志だけが宿っていた。
相澤もフィールドを見ながら、ユカリたちが入学してきた当初のことを思い出していた。
1年A組の担任として、彼女たちを迎えたあの頃。
ある日の演習テストで、1対1の戦闘を行った時のことだ。
相澤が『個性』をあえて消し、彼女の能力を封じた瞬間があった。
普通なら慌てるはずの局面。
しかしユカリは、一瞬の迷いもなく格闘戦へと切り替え、相澤に向かって鋭い突きを繰り出して見せたのだ。
『ほう、やるな。いつ覚えた?』
『先生の個性を知ってすぐです。まだ、始めたばかりですけど』
当時はまだ形にもなっていない、粗削りな状態。
『あと私、近接が苦手なので』
入学して間もないというのに、相手の個性への対策、そして自分の苦手な部分をこれほど客観視し、対策を練っている。
その冷静な自己分析能力。
彼女の機転とセンスに、相澤が内心で大いに驚かされたのを今でもよく覚えている。
(あの頃から、引き出しの多い奴だった……)