第36章 2on1
轟焦凍は、あまりにも強すぎる。
だからこそ、仲間を信じるより先に、一人で片付ける術を知ってしまっている。
けれど、これからの過酷なプロの世界を生き抜くためには、個人の力だけでは限界がある。
ユカリは、少し落ち込んだように立ち尽くす轟と、静かに彼を見つめる八百万の二人を見つめた。
「もう一回」
優しく、けれど頼もしい笑みを浮かべて言う。
「今度は二人で来て」
轟は、自分の未熟さを噛みしめるように、少しだけ視線を伏せて考え込んだ。
ついさっき、ユカリの前に立った時に誓った決意を思い出す。
憧れの彼女に、一人のヒーローとして全力で認められたい。
そのためには、独りよがりの強さでは届かないのだと、今ようやく痛感した。
ゆっくりと顔を上げた轟の瞳から、迷いが消える。
彼は八百万の方を真っ直ぐに見た。
「八百万」
「はい」
「……次は、指示をくれ」
八百万が、驚きに目を見開く。
「ちゃんと、聞く」
そのあまりにも素真面目な宣言に、今度は観戦席からドッと大きな笑い声が沸き起こった。
「今まで聞いてなかったのかよ!」と上鳴がヤジを飛ばす。
「聞いてはいた」
轟はいたって真顔で、大真面目に観戦席を振り返った。
「でも、使ってなかった」
「それ聞いてないのと同じだからな!?」
瀬呂の間髪入れない突っ込みに、張り詰めていた八百万の表情がふっと綻び、思わず笑みがこぼれた。
「――では、今度こそ」
八百万が頼もしく頷き、轟もまた、確かな信頼をその瞳に宿して頷き返す。
「頼む」
その一言。
それだけで、二人の間に流れる空気が変わる。
正面で待ち受けるユカリは、その頼もしい変化を嬉しそうに見つめて微笑む。
相澤もまた、小さく満足そうに頷いた。
今日の訓練の目的は、単純に勝つことではない。
一人で強くなることでもない。
誰かと力を合わせて。
共に強くなること。
その第一歩を、轟はようやく踏み出したのだった。