第36章 2on1
しかし。
その絶対的な制圧能力をもってしても、ユカリを捉えることはできなかった。
すでに彼女はそこにはいない。
氷の最上部、さらにその先のビルの屋上へと、風のように軽やかな身のこなしで移動していた。
「速い……!」
八百万が目を見開く。
その間にも、轟は一切足を止めることなく、さらに氷を放ち、障害物を破壊しながら前進を続けた。
完全に一人で戦う立ち回りだった。
観戦席で、相澤が小さくため息を吐く。
「やっぱりか」
「相澤先生?」
隣にいたミリオが不思議そうに視線を向ける。
相澤はフィールドの轟を見据えたまま言葉を続けた。
「轟は強い。それは全員が知っているし、だからこそ一人で大抵の事態を解決できてしまう……その結果、周りを使って戦うのが致命的に苦手だ」
ミリオが「なるほど……」と、納得したように深く頷いた。
フィールド内では、八百万が必死に冷静さを保ちながら打開策を探っていた。
「轟さん!」
遮蔽物の影から、再び彼を呼ぶ。
「一度引いてください! まず役割分担を!」
「わかった」
轟は短く返事をする。
だが、その次の瞬間には、再び一人でユカリの気配がする方へと突っ込んでいった。
「わかってませんわーーー!!」
八百万の、悲鳴のようなツッコミがグラウンドβに虚しく響き渡る。
観戦席からは思わず「ぶっ!」と上鳴たちの笑い声が漏れた。
だが、轟は大真面目だった。
八百万の声は聞こえている。
無視しているわけでもない。
しかし、目の前の「敵」を捕まえなければならないという局面において、体が、そして今までの戦い方で染み付いた本能が、真っ先に動いてしまうのだ。
(敵が見えた。なら、俺が捕まえる。それだけだ――)
完全に個人戦の思考。
屋上からその様子を観察していたユカリは、やはり、と確信した。
轟は優しい。
仲間のことも大切に思っている。
けれど、戦闘という場に身を置くと、全てを自分の肩に背負い、自分の力だけで解決しようとする悪癖が出てしまう。