第35章 常夏SPLASH
ユカリから送られてきたばかりの、短いメッセージが光を放った。
『来週の日曜日なら空いてるよ』
画面を見つめたまま、爆豪の動きがぴたりと止まる。
思わず、弾かれたように顔を上げ、ユカリを見た。
ユカリは彼がメッセージを読んだのを確認すると、いたずらが成功した子供のように、満足そうに笑った。
そして、「バイバイ」と小さくひらひらと手を振り、何事もなかったかのように再び前を向いて歩き出していく。
その背中を見送りながら、爆豪の胸の奥で、言葉にならない感情が渦巻いた。
いつだってそうだ。
ユカリは、驚くほどよく人を見ている。
観察しているなんて生易しいものじゃない。
相手が何を求めていて。
どんな言葉を欲しがっているのか。
その核心を、何の気なしに、けれど正確に見透かして、すくい上げてみせる。
いつだって落ち着いていて。
周りには頼りがいのある余裕を漂わせ。
誰もが自然とあいつを慕い、あいつの周りに集まっていく。
(どこまで人のこと見てやがんだ、テメェは……)
朝送った、ぶっきらぼうな『今日何してんだ』という短い一言。
そこに込められた本音。
お前と話がしたい。
お前の予定が知りたい。
そんな爆豪自身の不器用で、身勝手な独占欲の混じった本音を、ユカリは見抜いていたのだ。
だからこそ。
『来週の日曜日なら空いてるよ』という、これ以上ない「正解」の返信が届いた。
悔しい。
だが、それ以上に脳裏を掠めるのは、自分と、ユカリの距離が極限まで縮まった、あの日の記憶。
形だけの関係じゃ満足できない。
あのユカリの、優しくて温かい心も。
その全ても。
全部、自分のものにしたい。
他を寄せ付けない圧倒的な強さで、爆豪勝己という存在だけで、あいつの心を全部、埋め尽くしてやりたい。
ドクン、と心臓がうるさく跳ねた。
「あ、おい、爆豪?駅あっちだぞ?」
怪訝そうに声をかけてくる切島の声など、もう耳に入らなかった。
気づいた時には、踵を返し、駅とは逆方向に向かって早足で歩き出していた。
アスファルトを強く蹴る。
夕暮れの影が長く伸びる中、ただユカリの背中だけを見据えて進む。