第35章 常夏SPLASH
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流れるプールを半周ほどして、スタート地点から随分と離れた場所。
ぷかぷかと浮き輪で流れるユカリの隣で、轟は水流に流されないようにとその縁へ自然に手を添えて歩いていた。
屋内プールには、子どもたちの笑い声や水音が絶え間なく響いている。
そんな賑やかさの奥から、遠く反響して聞こえてきた「ブチ殺すぞ!」という爆豪の怒声に、ユカリはくすくすと可笑しそうに笑った。
(……爆豪くん、なんだかんだ言いながら、みんなの荷物預かってくれてるんだろうな)
そんな中。
少し前を流れていたミリオが、水流の中でひょいと振り返った。
「轟くん!見て見て!」
そして、轟に向けてお決まりのポーズを取る。
「桃がなってるよ!!」
水面からお尻をぷっくりと突き出したミリオの全力のネタに、近くを流れていたねじれが「あははは!通形またそれやってるー!」と大爆笑した。
ユカリも思わず苦笑しながら、ミリオに声をかける。
「ミリオ、みんな見てるよ?」
「うん見せてる!」
一方で、ミリオの一歩後ろにいた環は小さくため息を吐きながら、水に浸かってその声を静かに聞いていた。
呆れつつも、親友の変わらない眩しい明るさにどこか救われている自分がいて、前髪の隙間からふっと目を細める。
「……ミリオは、本当にいつも明るいな……」
三者三様のリアクションの中、轟だけは至って真面目な顔で、ミリオのその『桃』をじっと観察していた。
「……なるほど、お見事です」
「あははは!真面目だねぇ轟くん!でも楽しいよね!みんなでプール!」
ミリオが水飛沫をあげて笑いながら、眩しい笑顔を向ける。
『楽しい』
その言葉に、轟は小さく瞬きをした。
自分の家庭環境は複雑だ。
普通の家族が送るような、普通の『楽しい夏の思い出』なんて、これまでの人生にはほとんど存在しなかった。
過去を振り返れば、割り切れない思いや、暗い感情がどうしても胸をよぎる。
けれど。
今日こうして、雄英の仲間や先輩たちとただ水に流されている時間は、偽りのない本物だった。
色々と思う部分はあれど、轟はどこまでも素直に、自分の心を言葉に乗せた。
「……はい。楽しいです、すごく」
少し照れくさそうに、けれど本当に嬉しそうに目を細める轟。