第35章 常夏SPLASH
そんな彼の横顔を見て、ユカリの胸にじわりと優しい温かさが広がっていく。
彼の家の事情について、詳しいことまでは知らない。
抱えてきたもののすべてを知っているわけでもない。
けれど、彼が複雑な家庭環境に置かれていることくらいは、ユカリも察していた。
だからこそ。
ユカリは少しだけ距離を詰め、彼に寄り添うように優しく、満面の笑顔で言った。
「まだ1年生だもん。これから楽しいこと、もっともっといっぱいあるよ」
まだ、16歳の男の子なのだ。
今まで知らなかった楽しいことも、嬉しいことも、これからたくさん経験するはず。
色んなことを。
この雄英で。
みんなと一緒に。
ユカリのその真っ直ぐで温かい言葉は、轟の胸の奥に残る冷たいわだかまりを、優しくゆっくりと溶かしていくようだった。
(……あぁ、やっぱり俺、この人が好きだ)
轟は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを確かに感じていた。
触れられてもいないのに、まるで心の一番柔らかい場所にそっと触れられているような、不思議な感覚。
ユカリの言葉には、同情なんてこれっぽっちも混ざっていない。
ただ、彼の生きてきた16年間を丸ごと包み込んで、当然のようにこれからの未来を照らしてくれる。
ただ、そこにいてくれるだけで救われるような温かさを、轟は心の底から再確認していた。
愛おしさが、言葉よりも先に身体を動かす。
ゆらゆらと流れる水流の中、轟はユカリの浮き輪に添えていた手に、少しだけ力を込めた。
ぐ、と一瞬だけ、浮き輪の動きが止まる。
「ユカリ先輩」
「?」
不意に名前を呼ばれ、不思議そうにユカリが轟を見上げた。
視線が重なった、その瞬間。
言葉を交わすよりも早く、轟は水面できらめく光を遮るようにして、ユカリの唇へと自身のそれを重ねていた。
ほんの一瞬の、柔らかくて、けれど確かに熱を帯びたキス。