第35章 常夏SPLASH
(……だめだ、意識しちゃう……)
ほんの少し轟の距離が近づくだけで、身体の奥がキュッと熱くなるような錯覚に陥り、ユカリは必死に理性を保とうと拳を握りしめる。
だが、そんな二人の絶妙な甘い空気を、テンションMAXのスタッフは見逃さなかった。
轟の顔を間近で見たスタッフが、突然「いやぁ!」と声を裏返して手を叩く。
「お兄さん、めちゃくちゃイケメンだね!?」
「そうですか」
「顔がいい!」
「ありがとうございます」
お世辞抜きの絶賛に対し、轟は表情一つ変えずに淡々と、かつ律儀に礼を言う。
そのブレない態度に調子を良くしたスタッフは、さらにユカリを指さしてまくし立てた。
「しかも彼女めっちゃ可愛い!」
「ずっと可愛いです」
「――っ、ぅ、え……!?」
息をするように「ずっと可愛いです」と真顔で言い切った轟に、ユカリの脳内処理は完全にパンクした。
恥ずかしさと愛おしさと、事故の日の記憶がごちゃ混ぜになって、顔から火が出そうなほど真っ赤になる。
背後で気配を消していた環も「……轟くん、ストレートすぎる……」と、その天然な破壊力に戦慄している。
だが、スタッフの勢いは止まらない。
「美男美女!」
「ありがとうございます」
「素直でいい子!」
テンポの良い会話のドッジボール(轟はすべて直球ストレート)に大満足したスタッフは、「よーし、それじゃあお幸せにー!」と、今度こそ二人をスライダーの階段へと押し出した。
「わっ……!」
スタッフの手によって、ユカリの背中が轟の逞しい胸元へと優しく押し付けられる。
ほんの一瞬触れた彼の肌の温度に、ユカリはビクッと身体を震わせながら、流されるままにスライダーの階段のステップを上り始めるのだった。
受付前に残された出久と環。
出久は口元に手を当てて苦笑しながら、階段を上っていく二人の背中を見守り、背後に避難してきた先輩へそっと声をかける。
「あの二人、大丈夫ですかね?天喰先輩」
「………わからない」
腕を組んだ環は、死んだ魚のような目でじっと階段の上を見つめたまま、短くそう溢した。