第35章 常夏SPLASH
まさにカオスなその状況を見て、二人の腕を掴んでいたスタッフが、ふと動きを止めた。
そして首を傾げる。
「あれ?もしかして……彼氏違った?」
スタッフの視線が、ユカリと環から、新しく現れた出久と轟へと移る。
二人の水着姿の男子高校生をじっくりと見比べ、一人で「なるほど」と深く納得したようにポンと手を打った。
「あ、そういうことね! じゃあ、君たちのどっちかが本物の彼氏さん?」
「あ、い、いや!僕は彼氏じゃなくて……!先輩と後輩で、その、そんな大それた関係じゃ……っ!」
出久は顔をこれ以上ないほど真っ赤に染め上げ、凄まじい速度で両手を左右に振って否定した。
あまりの動揺っぷりに、スタッフは「あ、こっちは違うのね」と一瞬で見切りをつける。
「ということは……君か!」
スタッフは迷うことなく、隣に静かに立っていた轟の方へと向き直ると、その逞しい手首をガシッと掴んだ。
解放された環は、一瞬にしてスタッフの支配から逃れると、出久の背後にスッと気配を消すように退避した。完全に生還した形である。
「お待たせしちゃってごめんね!さぁ、どうぞどうぞ!」
「え……っ!?」
スタッフのあまりの猛進ぶりに、ユカリの心臓が跳ね上がる。
一方、手首を掴まれた当の轟は、慌てる風でもなくピンク色の看板の文字をじっと凝視した。
そこに書かれた『男女密着・二人乗り専用』というルールを秒で理解したように、「なるほど」と小さく呟く。
轟はスタッフの手をすんなりと受け入れたまま、否定するでもなく、ただじっと、顔を赤くしているユカリを見つめ返した。
「……先輩が嫌じゃないなら、俺はいいですけど」
「……えっ、と……」
いつも通りの淡々としたトーンで、けれどストレートにそう言われ、ユカリは急に顔が熱くなるのを感じた。
あの小さな一人用の浮き輪に、この綺麗な顔の年下の後輩と二人でぎゅうぎゅうになって滑る。
想像しただけで、恥ずかしさが一気に込み上げてくる。
ほんの数日前。
個性事故のあの日に浴びた、彼の熱と冷たさ。
まだ耳の奥に残っている、ユカリの理性をめちゃくちゃに溶かした彼の低い声が、今まさにすぐ目の前で鼓膜を震わせているのだ。