第35章 常夏SPLASH
「……本当、嵐のような二人だ……」
ミリオとねじれが遠ざかっていくスライダーの階段を見上げながら、環がぽつりと呟いた。
その言葉に、ユカリは思わず笑って顔を見合わせる。
「流れるプールでも行く?」
「……賛成」
ユカリと環は性格的にあの二人とは違って落ち着いている。こういうのにノリで乗るタイプではない。
適度な距離感で、のんびりとこの空間を楽しむ方が性に合っていた。
ユカリが苦笑いしながら踵を返そうとした、その時だった。
背後から駆け寄ってきた係員のスタッフが、満面の笑みで二人の腕をガシッと掴んだ。
「あ、ほらほら君たちも!カップルデーなんだから遠慮しないで!」
「え?」
「………え?」
突然のホールドに、ユカリは目を丸くし、環は完全にフリーズする。
「いやー、年頃の男の子と女の子だと、やっぱりこういうの照れちゃう人多いんですよね!でも大丈夫!スライダーなんて一瞬、ほんの数十秒で終わりますから!良い思い出になりますよ!」
スタッフの目はキラキラと輝いており、二人のことを疑いようもなく「付き合いたての初々しいカップル」だと勘違いしている。
「あ、ち、違っ……!私たち、そういうんじゃなくて……!」
「いや、あの、俺たち、は……ただの、幼馴染で……」
慌てて首を振るユカリと、蚊の鳴くような声で必死に抗弁する環。
だが、テンションMAXのスタッフの耳に、二人のまともな弁明など届くはずもなかった。
「ほらほら、遠慮しないで!」
「ち、違うんだ……!」
スタッフは環の必死の拒絶を「若者の照れ隠し」と都合よく脳内変換し、有無を言わせぬ力で二人をスライダーの階段へとぐいぐい引きずり始める。
スタッフの勢いに押され、なす術もなく階段のステップに足をかけたその時だった。
「……ユカリ先輩?」
困り果てた二人の耳に、低く落ち着いた、けれどどこか熱を帯びた聞き覚えのある声が届く。
ハッとして視線を向ければ、そこには少し離れた通路に佇む、水着姿の轟と出久の姿があった。