第33章 恋情増幅(R18)
一方、後方の席では、教室の空気を凍りつかせるほどの凄まじい殺気が渦巻いていた。
「……チッ、クソが……」
爆豪は机に肘を突き、凄まじい仏頂面でペンを指先で弄んでいた。
その周囲には、目に見えるほどのどす黒いオーラが漂っている。
機嫌が悪いという言葉すら生ぬるい、最悪の極みだ。
昼休みに出久から個性の話を聞いて以来、爆豪はユカリをいつ捕まえるか、そればかりを考えていた。
それなのに、保健室で見た轟のどこか満たされたような落ち着いた空気。野生の勘とも言える鋭い直感で、爆豪は確実に悟っていた。
(あの野郎が、ユカリと、っ……)
自分が午前中、どれだけ先回りしても逃げられたというのに、一歩先を越された。
その事実が、爆豪のプライドと独占欲をこれ以上ないほどに激しく掻き乱していた。
「おいおい……バクゴー、どうしたんだよ。顔マジで怖いって……」
「なんかあったん、爆豪? いつもに増して地雷原じゃん……」
あまりの荒れっぷりに、切島や上鳴もどこか遠巻きに様子を伺うことしかできない。
大声で怒鳴り散らしもしない分、その静かな怒りと嫉妬の深さが余計にリアルで、誰も近づけなかった。
爆豪は仲間たちの声など完全に無視し、ポケットの中のスマホを、強い力で握りしめた。
(ふざけんじゃねぇぞ、あのバカ……俺以外の男の前で無防備な姿になりやがって……っ)
昨夜、スマホ越しに聞いたあの小さくて愛おしい『会いたい』という声。
あの声を、自分以外の男の前で、どんな甘い顔をして響かせたのか。
想像するだけで胸の奥が焼き尽くされそうになる。
個性の持続時間は、今日の夕方まで。
(………絶対逃さねぇ)
放課後、次こそは絶対に自分が彼女を捕まえる。
そして。
あの頑なな理性を全部ひっくり返して、俺のことだけを真っ直ぐに見るように仕向けてやる。
そう心に誓いながら、爆豪は爛々と輝く瞳で前方の席を睨み据えていた。