第33章 恋情増幅(R18)
「4限の演習で、ちょっと足を捻った。5限の始まりに相澤先生にバレて、保健室へ行けって言われて……」
轟は淡々と説明しながら、捲り上げた足首を見せる。そこはうっすらと青く腫れ上がっていた。
「そう、なんだ……」
―――ユカリの治癒は、対象に触れることでその治癒力を劇的に活性化させるものだ。つまり、轟の怪我を治すためには、彼に『直接触れなければならない』。
二メートル以内に近づくだけで理性が危うくなるというのは、さっきの爆豪の一件で証明済みだ。それなのに、直接触れるなど、もはや自爆特攻以外の何物でもなかった。
でも。
それでも。
ユカリは、胸に抱えていた資料を近くの机にそっと置いた。
目の前には怪我人がいる。
大切な後輩だ。
ヒーローを目指す者としても、自分自身の性格としても。
ここで個性の都合を優先して見て見ぬふりをするなんて選択肢は、ユカリの中に存在しなかった。
(……だ、大丈夫……一瞬で終わらせれば、絶対に大丈夫だから……!)
ユカリは拳をぎゅっと握りしめ、覚悟を決めて轟の方へと一歩を踏み出した。
二歩。
三歩。
その瞬間。
頭の中に悍ましいほどの甘い警報が鳴り響いた。
(………っ!)
さらに、もう一歩。
轟との距離が二メートルを切った瞬間、脳内の防波堤が一気に決壊しそうになる。
『好きなの』
『会いたかった』
そんな、個性が作り出した猛烈な誘惑の声が、容赦なくユカリの思考を埋め尽くしていく。
(黙って……!お願いだから今は静かにして……!)
必死に脳内の声を無視して、ユカリは轟の目の前まで辿り着く。
ベッドの縁に腰を落とし、腫れ上がった彼の足首へと、震える両手をそっと伸ばす。
その間、轟は動かず、ただじっとユカリの様子を見つめていた。
昼休みに出久から聞いた話が本当なら、今の彼女は自分と至近距離にいるだけで、相当無理をしているはずだった。
必死に理性を保とうと、涙目で顔を真っ赤に染め、唇を噛み締めて自分の足に触れようとしているユカリ。
その健気で、あまりにも無防備な姿に、轟の胸の奥にもまた、昼休みから続く熱い塊がじりじりと広がっていく。