第33章 恋情増幅(R18)
そして午前中の終わり際。4限目が始まる直前の西階段で、決定的な緊張感がユカリを襲う。
次の教室へ向かうため、なるべく生徒の往来が少ない西校舎の裏階段を選び、足早にステップを上っていた。
これでひとまず安心――そう胸をなでおろしかけ、階段の踊り場を曲がろうとした、その瞬間だった。
「おい」
上から降ってきたのは、低く落ち着いた、けれどどこか重みのある声。
ユカリは心臓が止まるかと思いながら、恐る恐る顔を上げた。
そこには、踊り場の壁に背を預け、ポケットに手を突っ込んだままユカリをじっと見下ろしている爆豪の姿があった。
もちろん、爆豪は偶然ここにいたわけではない。
午前中の一連の動きから、ユカリが自分と轟を意図的に避けて逃げ回っていることを完全に察知していたのだ。だからこそ、彼女の裏をかくように移動ルートを先読みし、この階段で先回りして待っていた。
「てめぇ、昨日の電話、なんで急に切りやがった」
大声で怒鳴ることはしない。けれど、その鋭い瞳は明らかにユカリの不自然な態度を不審がっていた。
「……それに、さっきから何で俺から逃げてんだよ」
爆豪がゆっくりと、距離を詰めるように階段を一段降りる。
その瞬間。
ユカリの頭の中に激しい警鐘が鳴り響いた。
(………!)
爆豪がまた一段、階段を降りてくる。
物理的な距離が縮まるにつれて。
彼が纏う熱。
微かに香るニトロのような甘い匂い。
そして圧倒的な存在感。
それらがユカリの五感を容赦なく支配していく。
(……まずい、まずい……!)
爆豪が近づくたびに、胸の奥から「好き」という感情が、濁流のようにせり上がってくる。
心臓がうるさいほど脈打ち、体温が急上昇していくのが分かった。
あまりの愛しさと、それを必死で抑え込もうとする葛藤で、視界がうるんでいく。
「……ち、違うの、っ……!」
絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていて、熱を帯びていた。
溢れそうになる狂おしいほどの好意を隠すため、ユカリは泣きそうな顔のまま、限界まで大きく後ずさりする。