第33章 恋情増幅(R18)
校門をくぐる頃には、ユカリの頬の赤みもようやく落ち着きを取り戻していた。
早朝の学校は静まり返っており、グラウンドから遠く聞こえる鳥のさえずりだけが響いている。
昇降口へ入る二人。
ユカリは下駄箱の前にしゃがみ、ローファーを脱いで上履きへ履き替え始めた。
一方、これから朝練の心操は、まだ靴を履き替えず、下駄箱に背を預けてその様子を見守っている。
やがて、静かな口調で切り出した。
「……で、それ、相澤先生に言わなくていいんですか」
「え?」
ユカリはびくりと肩を揺らした。
「だって、その『恋情増幅』でしたっけ。一定距離を切ったら理性が完全に消し飛ぶんでしょ」
心操は淡々と話を続ける。
「学校内で爆豪や轟と鉢合わせたら、それこそ大事故になるんじゃないですか。……特に爆豪なんて、四六時中爆発してるようなやつだし」
心操の至極真っ当な指摘に、ユカリはぐうの音も出ない。
確かに、授業中や廊下での移動時、いつあの二人に遭遇するか分からないのだ。
教師の相澤に事情を話し、対策してもらうのが一番安全に決まっている。
「それはそうなんだけど……」
困ったように眉尻を下げ、笑うユカリ。
その時だった。
「――心操、無駄話してないでさっさとグラウンドへ行け。5分遅れてるぞ」
自動ドアが開き、聞き慣れた低い声が響く。
振り向くと、首にはいつもの捕縛布、片手には缶コーヒーの相澤が、眠たげな目をしながら、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「あ、相澤先生。 おはようございます」
「おはようございます」
二人は慌てて頭を下げる。
「おう」
短く返事をした相澤は、缶コーヒーを一口飲むと、その視線をユカリへ向けた。
こんな時間に彼女が登校しているのは珍しい。
自然と眉がわずかに寄る。
「ユカリ。今日はずいぶん早いな。何かあったのか」
「そ、それが色々ありまして……」
曖昧に笑ってごまかそうとするユカリ。
相澤はその小さな違和感を見逃さなかった。