第33章 恋情増幅(R18)
心操は歩みを止めず、前を見据えたまま、その鋭い思考を巡らせていた。
(……おかしいな)
普段のユカリは、もっと落ち着いている。
周囲をよく見ている大人びた人間だ。
先生や同級生たちからも一目置かれている彼女。
そんな人が朝の誰もいない通学路で、ここまで怯えたように――いや、何かに必死に抗うようにパニックになっている。
他人のプライベートを詮索するのは、本来自分の趣味じゃない。
けれど、いつも冷静な彼女がここまで乱れているのを見ると、どうしても理由が気になってしまう。
(……まあ、こういう時のための“個性”だしな)
心操は一瞬だけ足を緩め、隣を歩くユカリを見つめた。
いつもより、少しだけ声を低く、意識を彼女の思考の隙間に滑り込ませるようにして、問いかける。
「先輩。そんなに誰を警戒してるんですか?」
問いかけられたユカリは、一瞬だけ言葉に詰まる。
(爆豪くんと轟くん、なんて言えるわけない……)
「……えっと、それはちょっと色々あって言えないんだけど……」
まだ、心操の『洗脳』の個性は発動していない。
ユカリに答える意志はあれど、肝心の「名前」を伏せて、ただ濁しただけだからだ。
疑問文に対して直接的な回答(=思考のロックがかかるトリガー)になっていなかった。
心操は小さく息を吐き、瞬時にアプローチを切り替える。
(警戒対象の名前じゃガードが固いか。なら、質問を変えて外堀から埋める)
「そういえば昨日、近くのスーパーでヴィランが出たんですよね。ニュースで見ました」
何気ない世間話を装った、けれど明確な問いかけ。
ユカリの警戒心が緩んだ。
「あ、うん。そうなの。ニュース見たんだ?」
カチリ、と音がした。
ユカリが返事をしたその瞬間。
彼女の脳内が白い霧に包まれたように、思考の主導権が心操の手へと渡る。
ユカリの瞳からすっと光が消え、身体の動きがピタリと止まった。
洗脳完了。