第33章 恋情増幅(R18)
―――翌朝。
薄明るい朝靄が白く残る時間帯。
街はまだ静かで、朝の風はやけに冷たく感じる。
寮を出て歩くユカリの頭は、昨夜のパニックに比べれば、いくらか落ち着きを取り戻していた。
(……大丈夫)
もう一度、心の中で繰り返す。
(今日は絶対に近付かない。会わない。それで全部解決するんだから)
しかし、決意とは裏腹に身体は正直だった。
誰もいない通学路。
それなのに。
右を見て、左を見て、何度も何度も不自然に背後を振り返ってしまう。
その時だった。
「……先輩、おはようございます」
「わっ!?」
背後から突然かけられた低く気だるげな声。
ユカリは肩を大きく跳ねさせて振り返る。
そこに立っていたのは、いつものように眠たげな目をこする心操だった。
「お、おはよう心操くん。朝早いんだね……」
「朝練なんで」
心操はそう言うと、小さく欠伸をした。
「一緒に行く?」
ユカリが尋ねると、心操は「うっす」と短く応じ、二人は並んで学校へと歩き出した。
だが、ユカリの奇妙な挙動は収まらない。
数歩歩いては後ろをキョロキョロと振り返り、曲がり角が来るたびに過剰に身を潜めるようにして警戒している。
そんな彼女の様子を横目でじっと見ていた心操が、ついに呆れたように口を開いた。
「先輩」
「うん?」
「不審者に見えるんで、隣でそれやるのやめてください」
「ご、ごめんね……!? 」
ユカリは慌てて両手を振って謝る。
だが、その視線はやはり落ち着きなく周囲を彷徨っている。