第33章 恋情増幅(R18)
沈黙の中、環が絞り出すように呟いた。
「……これもう恋愛じゃない」
ヒーローは淡々とスクロールを止める。
「そうだ。“恋愛感情”を言い訳にした強制行動だ」
その言い方は冷静だったが、経験の重さがにじんでいた。
ユカリは画面を凝視したまま、ゆっくりと瞬きをする。
数秒の空白の後、小さく溜め息を吐いた。
「……いや、これもう犯罪でしょ」
ミリオも苦笑いを浮かべるしかない。
「うん……さすがにこの例は恋愛とは言えないね」
ねじれも腕を組み、深刻そうな表情で頷く。
「プリンどころの話じゃなかったね……」
「そこを基準にしないでくれ」
環が即座に突っ込むが、その声にも以前のような余裕はない。
担当ヒーローは端末を閉じ、短く言った。
「だから言ったんだ。甘く見ないでくれと」
そして一度だけユカリを見て、続ける。
「特に今回のは“距離依存型”だ。無自覚に近づくのが一番危ない」
その言葉が落ちた瞬間、先ほどまでの穏やかな空気は完全に消え去った。
「……それで君、彼氏は?好きな子はいる?」
担当ヒーローが何気なく投げたその一言に、空気がほんの少しだけ変わる。
ねじれが「あっ」と目を輝かせ、ミリオは「おお……?」と興味津々の顔になる。
環は何も言わず、ただユカリを見ている。
全員の視線が集まる中、ユカリは――
「……い、いません」
即答はできなかった。
だが、ほんの一拍。
あまりにも不自然な間があった。
その“間”だけで、プロのヒーローを納得させるには十分すぎた。
「……なるほど」
担当ヒーローは小さく息を吐き、端末に視線を落としたまま言葉を続ける。
「もし特定の『彼氏』がいて、その相手一人に感情が向いている状態ならまだマシだった。防衛策も絞れるし、心のキャパシティが一人分で済むからね。個性の影響が出たとしても、被害は最小限で抑えられたはずだ。だが……」
ヒーローの言葉が、ユカリの胸に突き刺さる。
ユカリの頭の中には、消そうとすればするほど、勝手に浮かび上がってくる顔があった。
しかも1人ではない。
2人だ。