第33章 恋情増幅(R18)
「幸い、効果は24時間で自然消失する。だが問題はそこじゃない」
一瞬、周囲の空気が引き締まる。
「“距離”だ」
その言葉で、ユカリはようやく事の重大さを察し始め、眉をひそめる。
「距離って……その相手と近いと危ないってことですか?」
「そうだ」
ヒーローは淡々と続ける。
「ただでさえ増幅された感情だ。君の“気になる相手”がより近くにいるほど、その熱量は一気に跳ね上がる。そして――」
彼は最後に、警告を刻み込むように言葉を落とした。
「一定の距離を切った瞬間、理性は完全に消し飛ぶ。制御は一切、効かなくなると思ってくれ」
沈黙が落ちる。
いつの間にか営業再開されたスーパー。
自動ドアが開き、買い物客が一人通り過ぎていく音だけがやけに現実的だった。
ユカリは自分の肩を見た。
何もない。
ただの軽い接触だったはずのもの。
それが今は、妙に重く感じられた。
だが。
「ま、まあでも恋愛ってそういうものじゃないですか!」
ミリオの言葉が、その空気をふわりと溶かす。
「だって、もともと好きな気持ちが増えるだけでしょ?全然いいことじゃん!」
ミリオが明るく笑うと、ねじれも「うんうん、確かに!」とパッと表情を輝かせ、環も小さく安堵したように頷いた。
だが担当ヒーローは、まったく笑わなかった。
「……甘く見ちゃいけない」
低く、短く、ため息混じり。
そのまま端末を再び開くと、慣れた手つきで別のファイルを呼び出す。
「この個性の“後日事例”がいくつかある」
「後日事例?」とミリオが首を傾げた瞬間、画面が切り替わった。
そこに並ぶのは、妙に生々しい単語だった。
・窓からの不法侵入(複数回)
・対象への執拗な連絡(着信数百件)
・勤務先・学校への突撃
・身体的接触の強要
・押し倒し事案(未遂含む)
「…………」
この場の音が消えた。
ねじれの顔から笑みが消え、ミリオの口角も引きつったまま凍りつく。