第35章 常夏SPLASH
ようやく小さく深呼吸をして、彼女は火照りを引きずる足取りでゆっくりと歩き出す。
少し前を行くミリオとねじれは、「通形、夕飯なに食べる~?」「牛丼一択でしょ!」と呑気に会話を弾ませており、背後で起きた二人の劇的なやり取りには全く気づいていない。
ずっと隣を歩いていた環が、歩調を合わせるようにユカリの顔をチラッと見た。
そして、すぐに前を向いて歩きながら、ぽつりと言った。
「……ユカリ、顔赤い」
「え!?赤くないよ!?」
即座に否定するものの、その頬は夕日以上に熱を帯びている。
環は少しの間を置いて、淡々とした口調で続けた。
「……嬉しそう」
「っ、だ、だって今から事務所行くからね! 久々にお世話になった人に会うから嬉しいの!」
「論理が滅茶苦茶」
「もう!環の意地悪……!」
拗ねたようにそっぽを向くユカリの横顔を、環は静かに見つめた。
(……まあ、ユカリが嬉しいなら俺も嬉しいからいいけど……)
青春を謳歌している幼馴染の姿。
自分とは違う強さを持つ彼女が、こうして誰かに心を揺らし、愛らしい表情を見せていることが、環にとっては純粋に嬉しかった。
いつも誰かの為ばかりに動いている。
そんな彼女だからこそ。
環は小さく、けれど確かに安堵の笑みをこぼすと、そっと彼女を守るように寄り添って歩き続けた。
夕闇が静かに迫る街路。
少し不器用で、けれど真っ直ぐに、水面を遮るように熱く求めた轟。
己の激情に突き動かされ、傲慢なまでにその心ごと全てを奪おうとした爆豪。
そして、隣で彼女の幸せを何よりも尊び、静かに見守る環。
三人が三人とも、それぞれのやり方で、ユカリという存在を狂おしいほど大切に想い、愛おしくて仕方がないのだった―――