第33章 恋情増幅(R18)
誰もがそう信じて疑わない、穏やかで平和な時間だった。
――悲鳴が上がるまでは。
「きゃあああ――っ!!」
突如として、張り詰めた悲鳴が空気を引き裂いた。
レジ付近の奥の通路から、鼓膜を震わせる激しい爆発音が轟く。
衝撃で天井の照明が激しく揺れ、一つが耐えきれずに粉々に砕け散った。
ガラス片が雨のように降り注ぎ、店内の和やかなざわめきは、一瞬にして混沌とした恐怖へと塗り替えられる。
「ヴィランだ!」
ミリオの顔から、さっきまでの無邪気な笑みが綺麗さっぱりと消え失せた。
その目はすでに、プロヒーローさながらの鋭さを帯びている。
そして次の瞬間には、ミリオの身体はもう動いていた。
「ユカリ! 避難誘導を!」
「了解!」
ユカリは即座に踵を返し、周囲の状況を把握すべく鋭い視線を巡らせた。
出入口の位置、非常口の導線、そしてパニックに陥りかけている客の動線――
「みなさん、こっちです!落ち着いて外へ!押し合わずに、走らないで進んでください!」
ユカリが凛とした声で客たちを導く中、ミリオが間髪入れずに次の指示を飛ばす。
「波動さん、右だ!」
「任せて!」
ねじれが力強く一歩を踏み込む。
その両手から放たれた螺旋状の衝撃波が、逃げ道を塞ぐように崩れ落ちていた棚の破片を、正確に、かつ豪快に弾き飛ばした。
一瞬にしてクリアな避難通路が確保される。
「環!」
「……了解」
短い返事。
だがそれだけで十分だった。
環はすでに自身の“個性”を発動すべく、袖から覗く手を伸ばし、生成を開始させている。
三年生になった彼らに迷いはない。
交わされる言葉は最小限。
だが、互いの視線と気配だけで、その思考は完璧にシンクロしている。