第32章 退院
荷物は来た時とほとんど変わらない。
着替えや日用品をバッグへ詰め終え、ユカリは最後に病室を見回した。
白いベッド。
窓際の椅子。
毎日景色を眺めていた窓。
たくさんの人が笑ってくれた場所。
少しだけ寂しい気持ちになる。
病室を出ると、看護師たちが笑顔で見送ってくれた。
「退院おめでとうございます」
「ありがとうございました」
何度も頭を下げながら病棟を歩く。
エレベーターが一階へ到着し、自動ドアが開く。
外へ一歩踏み出した瞬間。
ふわり、と風が頬を撫でた。
思わず深呼吸をする。
病院の中とは違う、草木の香り。
暖かな陽射し。
遠くで鳴く鳥の声。
空を見上げる。
自由に広がる青空に、胸がいっぱいになった。
やっぱり外はいい。
何気ない景色さえ、こんなにも愛おしく感じる。
迎えに来てくれた両親の車へ乗り込み、病院をあとにする。
窓の外を流れる街並みを眺めながら、ユカリはぼんやりと思った。
もうすぐ、みんなに会える。
ねじれはきっと泣きながら笑ってくれる。
ミリオは大げさなくらい喜ぶだろう。
環は小さく笑って「おかえり」と言うはずだ。
1年生のみんなも、きっと心配してくれる。
そんな姿が容易に想像できて、ユカリは思わずくすりと笑った。
車は雄英高校の敷地へ入る。
見慣れた校舎。
広いグラウンド。
そして―――学生寮。
車を降りると、懐かしい空気が胸いっぱいに広がった。
ここが自分の帰る場所。
そう思った瞬間、不思議と胸が熱くなる。
荷物を持ち直し、ユカリはゆっくりと寮の玄関へ向かって歩き出した。
一歩、一歩。
その足取りはまだ万全ではない。
それでも、確かに前を向いていた。
ようやく帰ってきた。
大切な仲間たちが待つ、この場所へ。