第31章 病院
爆豪は眉間に深い皺を寄せた。
気に食わねぇ。
あいつらなんかのことで。
ユカリが悩まされていることが。
考え込んでいることが。
どうしようもなく腹立たしかった。
……だが。
同時に、少しだけ理解もしてしまう。
ユカリという人間を、爆豪は知っている。
道で泣いている子どもを放っておけない。
怪我をした人を見れば真っ先に駆け寄る。
敵味方なんて関係なく、苦しんでいる人間がいれば手を差し伸べようとする。
そういう奴だ。
だからきっと。
ヴィラン連合の中にも。
人間を見つけてしまったのだろう。
悲しみや苦しみを。
救えなかった過去を。
「……甘ぇんだよ」
小さく漏れた呟きは、夜風にさらわれる。
その声に怒気はなかった。
呆れと。
諦めと。
ほんの少しの優しさが混じっていた。
ユカリは甘い。
どうしようもなく。
誰よりも。
だから危なっかしい。
だから放っておけない。
だから、自分はあの日。
迷うことなく助けへ向かった。
爆豪は横断歩道の前で立ち止まる。
黄信号が静かに点滅していた。
ふと。
脳裏に焼き付いた光景が蘇る。
黒霧のゲート。
空間が裂ける音。
吸い込まれるユカリの身体。
必死に伸ばした右手。
あと少しだった指先。
届かなかった。
あの一瞬だけは。
何度思い返しても、胸の奥を鋭く抉ってくる。
今でも鮮明だった。
「……二度と」
誰に聞かせるでもなく呟く。
その声は夜の静けさに溶けて消えた。
二度と。
あんな顔はさせない。
二度と。
連れ去らせない。
二度と。
届かなかったなんて思いはしたくない。