• テキストサイズ

【ヒロアカ】MY SWEET HEROES

第31章 病院




***

病院を出る頃には、空はすっかり夜の色へと染まっていた。

街灯が静かに道路を照らしている。

爆豪は一人、ポケットに手を突っ込んだまま歩き出す。

足音だけが、静かな歩道に規則正しく響く。

今日は珍しく、誰かに怒鳴ることも、考え事を振り払うように歩幅を速めることもない。

ただ前だけを見て歩いている。

……いや。 

違う。

何も考えていないわけじゃない。

考えたくないことが、頭の中を何度も巡っていた。


『もし私が今の私じゃなかったら』

『ヴィラン連合みたいな環境で育ってたら』

『私もあっち側だったのかな』 


病室で、ユカリが静かに口にした言葉。

穏やかな声だった。

けれど、その一言一言は妙に重く、爆豪の胸に引っ掛かったまま離れない。

「……チッ」

短い舌打ちが夜道に溶ける。

あいつは結局、何も話さなかった。

監禁されていた数日間、何があったのか。

誰と話したのか。

何を聞いて、何を見たのか。

警察の事情聴取でも同じだったらしい。

監禁されていた。

食事は与えられていた。

それ以外は必要最低限。

余計なことは一切話さなかったという。

それでも爆豪にはわかる。

何もなかったはずがない。

ヴィラン連合のアジトで。

何かを見た。

何かを聞いた。

何かを感じた。

その数日間が、ユカリの中に確実に何かを残している。

爆豪は夜空を見上げることもなく歩き続けた。

頬を撫でる風が少し冷たい。

頭の中に、ヴィランたちの顔が浮かぶ。

死柄木。

荼毘。

トガヒミコ。

トゥワイス。

黒霧。

コンプレス。

敵だ。

紛れもない敵。

多くの人を傷付け、恐怖を振り撒き、ヒーローが倒さなければならない相手。

その認識は一ミリも変わらない。

だが──

ユカリはきっと違った。

敵としてだけでは見てなかった。

だからあんな顔をしていた。

病室で窓の外を眺めていた横顔。

どこか遠くを見つめる瞳。

迷っているようで。

苦しんでいるようで。

答えを探し続けているような表情。


/ 571ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp