第31章 病院
爆豪は面倒くさそうに窓の外へ視線を向ける。
「別に平気だ」
「平気じゃないでしょ」
「平気だ」
「目の下に隈ある」
「うるせぇ」
ユカリは困ったように眉を下げ、小さく笑った。
その表情を見た瞬間。
爆豪はふいっと視線を逸らす。
だが。
「チッ……」
爆豪は観念したように舌打ちした。
「……寝れなかっただけだ」
ぽつりと零れた小さな本音。
そして。
「目ぇ閉じると」
さっきまでより少し低い声になる。
「思い出すんだよ」
ユカリは何も言わず、静かに耳を傾けた。
爆豪は窓の外ではなく、自分の膝のあたりを見つめている。
「あと少しだった」
その一言だけで、ユカリの胸が締めつけられる。
「あと少しで届いてた」
あの日。
黒霧のゲート。
閉じていく空間。
必死に伸ばした腕。
届かなかった指先。
ほんの数センチ。
その数センチが、何度夢に出てきたかわからない。
「……だからムカついてた」
悔しかった。
助けられなかった自分に。
届かなかった自分に。
ユカリは静かに息を呑む。
爆豪は。
ずっと自分を責め続けている。
「爆豪くん」
「なんだ」
「ありがとう」
静かな声だった。
爆豪は何も言わない。
「来てくれて」
「………」
「助けてくれて」
「………」
「諦めないでくれて」
そんなことを言われると困る。
別に自分は特別なことをしたつもりなんてない。
助けに行くのは当然だった。
諦めるなんて選択肢は最初からなかった。
「礼なら」
ようやく口を開く。
「デクとか轟にも言っとけ」
「うん」
「通形と天喰にも」
「うん」
「全員、死ぬほど心配してた」
その言葉に。
ユカリは静かに俯いた。
脳裏に次々と浮かぶ大事な人たち。
たくさん泣いてくれた出久。
震える拳を握り締めていた轟。
安心したように小さく笑った環。
力いっぱい抱き締めてくれたミリオ。
涙を隠して笑ってくれたねじれ。
そして。
誰よりも怒っていて。
誰よりも心配していて。
誰よりも諦めなかった爆豪。
「……うん」
小さく頷いた、その時だった。