第31章 病院
爆豪は大きく息を吐き、頭をがしがしと掻いた。
「……あんのクソババァ。余計なことしか言わねぇ」
照れ隠しなのは、誰が見ても明らかだった。
ユカリは思わず笑みを漏らす。
爆豪がちらりと睨む。
「何笑ってんだ」
「だって」
ユカリは柔らかく首を傾げた。
「すごく仲良しな家族だね?」
「どこがだよ」
けれど。
そのぶっきらぼうな声には、いつものような棘はない。
肩の力が抜けたような、どこか安心した響きが混じっていた。
「みんな楽しそうだった」
「……気のせいだろ」
爆豪は窓の外へ視線を向けたまま、小さく返す。
ユカリは静かに微笑んだ。
遠慮なくぶつけて。
遠慮なく怒鳴って。
遠慮なくからかって。
それでも最後には、みんな笑っている。
そんな何気ない時間が、とても温かく見えた。
きっと、あれも家族の形なんだ。
それからずっと慌ただしかったユカリの面会はやっと落ち着いて。
しばらく病室に静寂が訪れた。
けれど、不思議と気まずさはなかった。
言葉がなくても隣にいられる。
そんな心地よさが、二人の間にはあった。
爆豪はパイプ椅子に深く腰掛け、腕を組んだまま窓の外を眺めている。
その横顔を、ユカリはそっと見つめた。
少し伸びた金色の髪。
鋭い目つき。
ぶっきらぼうな表情。
相変わらず口は悪くて素直じゃない。
それなのに。
ここ数日で、ユカリは改めて気付いてしまった。
爆豪勝己という人は、ずっと変わらない。
寮で看病してくれた時も。
演劇の日にずっと待ってくれていた時も。
夏祭りで何気なく言葉をかけてくれた時も。
自分がヴィランに攫われたあの日も。
そして、助けに来てくれたあの瞬間も。
いつだって一直線だった。
誰よりも不器用で。
誰よりも真っ直ぐだった。
「ねぇ」
静かな病室に、ユカリの声が落ちる。
「あ?」
短く返事をする爆豪。
「寝てないでしょ」
爆豪の眉がぴくりと動いた。
図星だった。
「別に」
「寝てないんだ」
「寝た」
「何時間?」
「…………」
「爆豪くん?」
少し間を空けて。
「……三時間」
「少ないよ!」
思わずユカリが声を上げる。