第31章 病院
「そろそろ帰るか」
場の空気を読んだ勝が、ゆっくりと腰を上げる。
「えー、まだ話したい!」
すかさず光己が不満そうに頬を膨らませる。
「十分話しただろ」
「でももっと聞きたいのよ!」
「また今度でいいだろ」
呆れたように言いながら、勝は光己の肩をぐいっと押して出口へ向かわせる。
「はいはい、わかったわよ」
そう言いながらも、光己は最後にくるりと振り返り、満面の笑みを浮かべた。
「退院したらうち遊びに来なさいね!」
「え……?」
思わぬ誘いに、ユカリは目を丸くする。
「勝己のアルバム見せてあげる!」
「あ?」
爆豪の眉がぴくりと動いた。
「小さい頃、ヒーローごっこで泣いた写真とか!」
「おい」
「運動会で転んで大泣きした写真とか!」
「待てや」
「あと初恋の──」
「帰んぞテメェらァァァ!!!」
いい加減にしろとでもいうように。
病室中に爆豪の怒鳴り声が響き渡った。
一瞬の静寂。
そして――
「あっははははは!」
光己がお腹を抱えて笑い出す。
「ははっ……!」
普段は落ち着いている勝まで肩を震わせ、笑いを堪えきれていない。
爆豪は真っ赤な顔で額に青筋を浮かべている。
「笑ってんじゃねぇ!」
「だって勝己がそんな反応するから!」
「うるせぇ!!」
「図星だからでしょ!?」
「違ぇ!!」
そのやり取りがおかしくて、ユカリもとうとう吹き出した。
「ふふっ……あははっ……!」
笑いすぎてお腹が痛い。
ひとしきり笑ったあと、光己は優しい笑顔に戻る。
「じゃあね、ユカリちゃん。また顔見せなさいね」
勝も穏やかに微笑む。
「はい。今日はありがとうございました」
ユカリは自然と笑みを浮かべた。
「こちらこそ」
二人は軽く手を振り、病室を後にする。
カチャリ。
扉が静かに閉まり、足音が遠ざかっていく。